大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和58年(行コ)61号 判決 1985年7月30日

控訴人(原告) 日本テレビチューナー株式会社

被控訴人(被告) 伊丹税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し昭和五一年六月三〇日付でした、

(一) 控訴人の昭和四八年一〇月一日から昭和四九年九月三〇日までの事業年度の法人税についての更正処分のうち所得金額四五四万五四五五円、納付すべき税額一一五万二六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(但し、いずれも昭和五二年八月九日付裁決により一部取り消された後のもの)、

(二) 控訴人の昭和四九年一〇月一日から昭和五〇年九月三〇日までの事業年度の法人税についての更正処分のうち所得金額二二七万八七一二円を超える部分、納付すべき税額を三九〇万三二〇〇円とした部分及び過少申告加算税賦課決定処分(但し、いずれも昭和五二年八月九日付裁決により一部取り消された後のもの)

をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨。

第二当事者双方の主張

次のとおり付加、訂正するほかは原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決事実摘示の補正

1  原判決一三枚目表一二行目の「欠き、」の次に「納期の遅怠、不良品の発生、」を、同行の「高騰」の次に「等の弊害」を、同行の「右」の前に「このような弊害を除去するために」を、同一四枚目表一行目の「仕入商品の」の次に「品質の」をそれぞれ加える。

2  原判決一六枚目裏九行目、同一七枚目表五行目の「関信越國税局」を「関東信越國税局」と改める。

二  控訴人の新たな主張

1(一)  法三七条にいう寄付金とは、特定の者が、特定又は少数の者に対し(不特定又は多数であれば広告宣伝費の一要素となる)、特定の日時に、一定の経済的利益を、何らの対価関係もしくは必要性なくして(必要性もしくは事業関連性があれば交際費となり寄付金とはならない)なした贈与又は無償供与である。ところが本件においては、グループ各社のいずれの会社の拠出金がいずれの会社へ還元金として贈与されたかは特定しえない。又本件のような継続的契約関係において、或る月は還元金を受領し、或る月は拠出金を支出する結果となつた場合に、当該拠出金を贈与と認定して損金とせず、他方右還元金を益金とすることは、契約の趣旨、形態に背反することとなり、還元金と拠出金との差額を贈与だとすれば、還元金を受領する会社と拠出金を支出する会社は毎月交代するのであるから、このような当事者の異る収入と支出との差額を贈与(寄付金)とする論拠も法的根拠もない。

(二)  仮りに、対価性がないなどの理由で贈与に当る場合があるとしても、贈与者とその直接の相手方たる受贈者を特定しえない場合であつて、かつ一事業年度内に贈与原因となる指定仕入先との取引が多数存在するとき、期間損害概念をもつて、一定期間の受贈金と贈与金との差額が贈与となるとはいえない。

2(一)  本件附記理由は、本件拠出金が寄付金にあたるという法的判断について金銭の贈与であるというのみで、何故金銭の贈与にあたるかについての理由は示されておらず、単に結論を示したにすぎない。

よつて法の要求する理由附記とはとうていいえない。

(二)  本件附記理由には、贈与の相手方や何時の如何なる金額が贈与にあたるのかが記載されていないから、贈与の事実があるとする理由は勿論のこと贈与の事実も明らかにされておらず、これを明らかにすることなく寄付金であるとの結論を示したにとどまり理由不備の違法がある。

(三)  本件の雑損失勘定の金額は、拠出金と還元金との差額であるところ、本件附記理由によれば、拠出金と還元金との差額である雑損失が贈与ではなく、拠出金そのものが贈与であるとしている。そうだとすれば、仮払金に計上した拠出金のうち、雑損失に計上した額のみが何故贈与になるのかの理由が欠落している。

(四)  右のとおり本件の雑損失勘定の金額は、拠出金の額ではなく、拠出金と還元金との差額であるから、「雑損失勘定に計上した拠出金の支出」ということはありえず、控訴人の帳簿書類や決算報告書にもこのような支出は計上されていないし、このような仕訳もしていない。したがつて本件附記理由は、贈与とされた支出そのものの特定を欠くことになり、全く趣旨不明な記載である。

(五)  「雑損失勘定に仕入拡張費として計上した」とあるが、如何なる帳簿書類に計上したことを指すのかが明らかでない。

そして控訴人の第六期の雑損失の額は損益計算書により明らかなとおり三八四万〇五〇〇円であるところ、本件附記理由では三八二万二一〇〇円を拠出金としており、同じく第七期の雑損失は損益計算書により一、二〇八万三一四八円であるところ、本件附記理由では一、二〇五万九〇〇〇円を拠出金としており、いずれも理由に重大な齟齬がある。

(六)  本件附記理由では、拠出金が贈与であるとしながら、拠出金と還元金との差額を贈与(寄付金)にあたるとしており理由自体に矛盾がある。

以上のように本件各更正処分には理由不備の違法がある。

三  被控訴人の新たな主張

1  本件におけるグループ各社は、いずれも控訴人代表者大橋環及びその一族による同族支配会社である。そして本件規約は、その内容として、売上割戻し又は仕入割戻しとは性格の異る支出、収入が義務づけられるといつた拘束性を課することとされており、このことは同族関係にある支配性によることからなしえているものである。

そしてグループ各社が支出する拠出金は、結局は全てグループ各社に還元される関係にあることから、グループ企業所有者の立場からすれば、拠出金を支出することによつてグループ各社の企業利益がグループ各社以外に流出することはないため、拠出金支出や還元金受入の有無について考慮する必要はないこととなる。

しかし、グループ各社についていうなら、独立企業としてその支出、受入れの多寡が各社の企業利益に影響することを度外視することはできない。しかも、グループ各社とすれば、指定仕入先から部品等を購入してその指定仕入先について実績をあげればあげるほど、反面で新仕入先を開拓しなかつたという全く他事のことから掣肘され、それが拠出金となつて課徴金が課せられるというに等しく、商取引慣行としては独立企業としての利益を無視した約定が締結させられているのであつて、この拘束性は、同族支配関係下にあることによつてなしうる関係にある。

したがつて、その課せられる拠出金は、同族関係間にあるために支出が課せられることとなり、拠出金支出の効果が期待される直接性が認められないから、対価性のある支出ということはできない。

2  本件規約は、指定仕入先からの購入実績をあげて販売実績を向上させればさせるほど、拠出金が増額され連動していくこととなる矛盾と、拠出金が他の仕入先市場の共同開発と拡大を図ることにどのように作用するのかが不明であるという不合理性を有している。そして本来、市場の開発や拡大のための支出は、直接的効果を図つてなされるのが一般的であるのに、本件における拠出金の支出は、それによる直接的効果性の寄与は期待されないし、仮りに、右寄与があつたとしても、そのもたらされた新仕入先から仕入をするか否かはグループ各社の任意なる意思決定によるものであり、支出による必要的な直接性を期待しての拠出金ではない。

そうだとすれば、本件の拠出金支出の目的がグループ各社の仕入市場の拡大を図るためのものであるとはいえ、所詮、拠出金の支出は、同族支配関係によるグループ各社間の任意なる契約に基因するに等しく、租税公課等のようにその支出に客観的必要性を認める価値のないものであるから、拠出金は事業遂行のための通常必要な費用ということはできない。

3  又グループ各社のうち、カーラジオ用チユーナーを生産しているのは、控訴人、訴外日本チユーナー、同結城チユーナー、同那須チユーナーの四社であり、訴外ワールドチユーナーは、腕金を生産し、又右四社にチユーナーの部品を供給している会社である。したがつて右四社と訴外ワールドチユーナーの仕入部品は、仮に同一仕入先から仕入れたとしても競合しないと考えられるから、訴外ワールドチユーナーが開拓した新仕入先を他の四社が利用する可能性は極めて少なく、グループ各社の複数社購買の促進につながるものではない。

そして訴外ワールドチユーナーは、本件規約の締結当初から多額の還元金を得ているところから、右還元金の原資である本件の拠出金には対価性がない。

4  本件規約では従来の仕入先の全てが指定仕入先とはされていないから、仕入先を指定仕入先から従来の仕入先のうちの指定仕入先以外の仕入先に変更するだけで還元金収受の対象となる。このような場合、新仕入先開発のための費用は発生しないのであるから、還元金の原資となる拠出金は、何ら費用性を有しないことになる。

この場合に費用が発生するとしても、それはむしろ指定仕入先及びそれ以外の仕入先とを問わずに発生するチユーナーの新部品の生産に係る金型代及びメーカー側に提出する認定品を製作するための費用であつて、これらの費用はグループ各社が独自の収支計算のもとに負担すべきものであるから、グループ各社からの拠出金によつて補てんされる性質の費用ではない。

四  被控訴人の主張に対する認否及び反論

1  被控訴人の主張1項は争う。

およそ契約当事者は、その契約に基づき契約内容に基づく金銭の支払等の義務を負担するものであり、本件規約による拠出金の支払義務も本件規約に基づくものであつて同族関係による支配性によるものではない。

又本件規約は、グループ各社が指定仕入先の納期の遅怠、不良品の発生、値上要求に対処するため、各独立企業間の共存共栄のため新仕入先を開拓する必要性にせまられ締結されたものである。そして右各弊害に対処することは独立企業であるグループ各社に共通の利益である。

2  同2項は争う。

3  同3項は争う。

訴外ワールドチユーナーは、腕金の生産のみをしていたわけではなく、他の四社と同様チユーナーの組立をしていたこともある。又訴外ワールドチユーナーも指定仕入先から部品の仕入をしており他の四社と同様の関係にあつた。

4  同4項につき、従来の仕入先の全てが指定仕入先とされなかつたことは認める。しかしこれら指定仕入先とされなかつた仕入先は、前示のような弊害が生じなかつた良好な企業であり、仕入量を増大すべき仕入先であつた。そしてこれらの仕入先からの仕入量を増大させることは、ある面では競争化させて指定仕入先の価格を低減させることにもつながり、又これら良好な仕入先から新たな品種の部品を仕入れる場合には、新仕入先を開拓するのと同様に新たな金型の代金の負担という問題が生ずるのであつて、新仕入先の開拓と同じ関係に立つものである。

第三証拠関係<省略>

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴各請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は次のとおり付加、訂正するほかは原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決三一枚目裏三行目の次に改行のうえ、次のとおり加える。

「(4) 本件規約制定当時、部品の仕入先はグループ各社全体で約一三〇社あつたが、本件規約によつても、新たな仕入先を開拓することなく右約一三〇社のうちの指定仕入先とされなかつた仕入先から部品を仕入れた場合においても、還元金収受の対象とされていた。」

2  原判決三二枚目裏一〇行目の「六一九三万」を「六一三九万」と改め、同三四枚目表六行目の「下請業者」の次に「の中に」を加え、同八行目の「なかつた。」を「ないものもあつた。」と改める。

3  原判決三五枚目裏三行目冒頭の「い。」の次に「勿論、新仕入先が開拓され仕入先が複数化することにより、競争原理が働き仕入価格その他の条件でグループ各社に利益となることも考えられるが、それも間接的ないしは反射的効果であつて拠出金支出による直接的効果とは認められない。」を、同六行目の「従つて」の前に「又本件規約では、拠出金の支出、還元金の収受の対象となる仕入部品の品種が定められておらず、グループ各社の中には控訴人とは異つた製品を製造している会社もあるから、他のグループ各社が、控訴人において必要としない部品について新仕入先を開拓したとしても、控訴人が当該仕入先を利用することはなくかつ右新仕入先の開拓によつて控訴人が何らかの利益を得ることも考えられないから、右新仕入先から部品を仕入れたことにより支払われる還元金の原資となる控訴人の拠出金は、何らの対価性も又事業との関連性も有しないといわなければならない。」を、同七行目の「考慮すれば、」の次に「本件規約が仕入先の開拓による部品の複数社購買を促進することを目的としたものであり、拠出金の支出が本件規約によつて義務付けられたものであるとしても、その支出は事業収益をあげるために直接必要な通常の一般管理費その他の経費とはいえず、又」をそれぞれ加える。

4  原判決三八枚目表七行目の「当該」から同九行目の「程度に」までを「更正の根拠を前示更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に」と、同三九枚目表四行目の「その」から同七行目末尾までを「控訴人がそれぞれ確定申告書添付の雑益、雑損失等内訳書の雑損失勘定に仕入拡張費として計上した金額について、損金算入を否認した法律上及び事実上の根拠を具体的に示しているものと認められ、前記認定の程度の記載をもつて処分庁である被控訴人の恣意抑制という理由附記制度の趣旨目的に則したものと解され、かつ被処分者である控訴人に不服申立てをすべきかどうかの判断に必要な資料を提供するものと認められる。」とそれぞれ改める。

5  当審における控訴人の新たな主張についての判断

(一)  法三七条五項に定める寄付金とは、前示(原判決二七枚目裏一行目から八行目まで)のとおりであり、給付又は供与の相手方が特定されなければならないものではないものと解され、又本件においては還元金を収受する者はグループ各社のうちのいずれかであることは明らかであり、その限度において給付を受ける相手方は特定されているものといわなければならない。

又前掲甲第五、第六号証の各一、第七号証の一、二、前示(原判決三四枚目裏六行目から九行目まで)認定の事実によれば、本件各更正処分において被控訴人は、本件規約による拠出金の支出が贈与(寄付金)に当るものと認定したものであり、控訴人が、確定申告にあたつて、拠出金と還元金との差額を仕入拡張費として雑損失勘定に計上していたことから、結果的に右差額の損金算入が否認されたにすぎず、拠出金と還元金との差額が贈与(寄付金)であると認定したものではないことが認められ、右拠出金の支出を贈与(寄付金)と認定したことには何ら違法な点がないことは前示のとおりである。

よつて控訴人の新たな主張1項は失当である。

(二)  前示本件附記理由には本件拠出金が金銭の贈与にあたるとの判断をした理由が記載されていないこと、又贈与の相手方、日時個々の支出額についての記載がないことは控訴人主張のとおりである。しかし前示(原判決三八枚目表一〇行目から同三九枚目表三行目まで)認定判断のとおり、本件各更正処分は、帳簿書類の記載を否認して更正したものではなく、控訴人が確定申告にあたつて雑損失勘定に仕入先拡張費として計上した金額の支出を認めたうえで、その支出に対する法的評価の判断を控訴人とは異にすることによつてなされたものであるから、このようなある事実を前提として法的評価の判断をのみする場合にはどの事項についてどのような法的判断をしたかを明らかにしうる程度に記載すれば足り、法令解釈上の論拠や個々の支出の具体的な日時、金額の記載がないからといつて前示理由附記制度の趣旨目的が損なわれるものではなく、法一三〇条二項所定の理由の附記として欠けるところはない。

又前示のとおり、本件各更正処分は帳簿書類の記載を否認したものではなく、又本件規約による拠出金の支出が贈与(寄付金)にあたると認定し、その結果、控訴人が確定申告にあたつて申告書添付の雑益、雑損失等内訳書の雑損失勘定に仕入先拡張費として計上した拠出金と還元金との差額の損金算入が否認されたものであつて、右差額あるいは雑損失勘定計上額のみが贈与(寄付金)であるとしたものではなく、そのことは前記認定の本件附記理由の記載によつても明らかとなつている。よつて控訴人の新たな主張2項(三)ないし(六)の主張は本件附記理由の記載を正確に理解しないものであつて失当といわなければならない。

二  以上により控訴人の本訴各請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 首藤武兵 寺崎次郎 井筒宏成)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例